幾何学の視点から見るキルトのデザイン 第4回 内部分割について

要旨:今回はこれまで簡単な説明しかしていなかった内部分割について、幾何学的な雰囲気をデザインに生かして頂けるようにもう少し詳しく説明したいと思います。

内部分割について

 内部分割については第1回の時に簡単な説明と例を示し、第2回と第3回では、アルキメデスタイリングで正三角形や正方形、そして、正八角形を内部分割してデザインに生かせることを説明しました。

 復習ではありませんが、内部分割について再度説明します。第1回で説明した正三角形や正方形だけでなく、全ての三角形と平行四辺形について整数分の1に内部分割することができます。その他はできません。正六角形、正八角形と正十二角形については、同じ形ではありませんが、正三角形、正方形や直角二等辺三角形で補助することで分割することができます。図1にそれらを示しています。内部分割して元の形と同じ形が出てきた場合には、代表の1つを黒塗りしています。なお、正六角形は別の取り方も可能です。

図1:内部分割の説明図

内部分割でできること

 では、内部分割でできることは何かというとデザインのバラエティを広げることです。図2では正十二角形を内部分割してデザインしたものです。

図2:正十二角形を内部分割したデザイン例

 図2左図は正十二角形を正三角形や正方形に内部分割したもの、右図は正方形を直角二等辺三角形に分割して色付けを行なった例です。デザインのバラエティが大幅に広がっていることがお分かりいただけると思います。デザインとしては多様性を強調しすぎの感もありますが、イメージとしては正方格子のいろいろな葉っぱが光合成でエネルギーを蓄え、六方格子の正三角、正六角形そして菱形の花が咲き乱れています。

内部分割によるデザインの利点

 このような形でデザインをすることの利点は次のような点ではないでしょうか。

1 全体の形がわかりやすい。この場合、全体は正十二角形。

2 パターンの繰り返しや部分へアクセントをつけることがやりやすい。

3 最小ピースの長さから全体の大きさを計算できる。例えば、図2の場合、最小ピースの正三角形が14個くらいになるので、一辺3cmとすると42cm、50cm角のキルトに上手く収まるくらいになるのではないでしょうか?

内部分割のさらなる応用

 次に内部分割する時に分割のルールを決めて、それを繰り返すことで特徴的な配置や構造を作ることができます。

 図3で第1回の例をもう少し詳しく説明します。図3の分割のルールは「対角線上にある正方形を3分割する。」というものです。まず、3分割したものが左図です。左図の灰色の正方形5つが対角線上にあるので、さらに3分割します。それが中央図です。中央図の灰色の正方形は対角線上にあるので、さらに3分割します。それを色づけしたものが右図です。

図3:分割のルールに基づく構造を持つ内部分割の例

 図3右図の特徴的な配置・構造は、3分割の構造が大中小の3種類あり、それが対角線に配置されているという点です。

 そのように作ったのですから当然といえば当然ですが、分割の仕方・ルールを決め、それを3回繰り返しています。さらに、そのルールを意識した色付けをしていることが特徴を際立たせています。

 このような構造を入れ子構造と言います。入れ子とは、あるものの中に、それと同種のものが入っていることで、有名なものといえばロシア伝統のマトリョーシカ人形があります。

 ところで構造を作る時の繰り返しの数ですが、3回以上であれば良いと思います。2回では偶然でも、3回であれば必然となります。そう言った意味で2回では色付け等で特徴を際立たせる必要があるかもしれません。

 六方格子で使える構造の例を図4、図5に示しました。図4は正三角形、図5は菱形を使った構造です。

図4:六方格子で使える構造(正三角形)

 図4は4つの図を入れたので番号をつけました。①はルール「正三角形を2分の1し、中央の正三角形を取り除く。残った正三角形に同じ操作を繰り返す」というもので、取り除いた正三角形を黒塗りしています。この図は3回しか行っていませんが、さらに繰り返した結果はシェルピンスキーのギャスケットと呼ばれています。③も①に似た感じですが、周辺方向に縮小しているところが異なります。③のルールは「2分の1の正三角形で取り囲む」です。②と④は共に内側に縮小していくものですが、②は1つの正三角形を2分の1にして中央の正三角形を2分の1することを繰り返しています。個人的な感想ですが、北海道のオオバナのエンレイ草を思い出す素敵な形だと思っています。④は2分の1したものが上手く当てはまるように正三角形の数を調整した構造です。

図5:六方格子で使える構造(菱形)

 図5左図は外側に縮小していく構造でルールは「2分の1の菱形で取り囲む」です。菱型の構造ですが、白黒で塗り分けました。中央図は内側に縮小していく構造で、縮小する比率が異なる2種類を挙げました。右図は正三角形と頂角120度の二等辺三角形で内側に縮小していく構造で、2回縮小して半分になるので、繰り返しを多くとれます。

 それでは今まで紹介した構造の種類が2倍になるという幾何学の魔法・サプライズをご紹介しましょう。図6をご覧ください。

図6:正三角形と直角二等辺三角形、菱形と正方形の関係

 正三角形と直角二等辺三角形、菱形と正方形の関係は図6左図のように両側に引っ張ったり、縮めたりすれば良いわけです。そう考えれば図6右図のように図3の例も菱形の構造として使えます。そして、図4で示した正三角形の構造は直角二等辺三角形にしてから2つ合わせれば正方形の構造として使えます。つまり、図4と図5で紹介した構造はすべて正方格子で使える構造に変換できます。構造の種類が一挙に2倍になるという幾何学の魔法をご理解いただけたでしょうか!ガッテン!

 残念ながら相互に変換できないものもあります。引っ張る方向が揃っていない場合等で、これらの構造を図7に示しました。

図7:相互に変換できない構造の例

 図7左図は頂角120度の二等辺三角を使って正六角形を内部分割しました。中央図は第3回で紹介した正八角形の内部分割を3回行いました。中央の小さな正八角形を縦横3cmのピースとすれば、全体が縦横42cm程度になりますので、使えない構成ではないと思われます。右図は黄金比(1.618)の長方形を正方形で分割していき黄金螺旋を作る時に使われる構造です。中の曲線が黄金螺旋です。なお、右図は正方形を無理やり菱形にできないわけではありませんが、意味がなくなると共に六方格子と整合できませんので、相互に変換できない構造として挙げました。

 

構造を入れたデザイン例

 構造を入れたデザイン例を図8に示します。まず、全体の形を考えます。アルキメデスタイリングの中で正三角形と正方形のパターンから図8左図の部分を取り出します。全体の形は正方形ではありませんが、うねりのある面白い形で、正三角形12個(内、菱形4つ)と正方形9個から成ります。次にいつもの水に浮かぶ花のイメージで大きな構成を考え、色付けをします。正三角形の方は菱形を花に、正三角形を葉っぱに。正方形は四隅4つと中央に花を、残りを葉っぱにします。そして、内部分割の仕方や使う構造を検討したデザイン例が図8右図です。

図8:構造を入れたデザイン例

 図8は構造を多用し過ぎていて統一感もありませんが、タイトルをつけるなら「百花繚乱」でしょうか。あくまでも説明例とお考えください。構造の使用には麻薬的な快感がありますので、デザイン1つに目立たないように1つを忍ばせておくことが肝要かもしれません。なお、図5の菱形の構造3つが図8で正方形の構造が変換され使われていますが、お分かりでしょうか?

 さらに伝統文様「石畳(市松模様)」「鱗紋」のニューモダンデザインという観点からも面白いと思うのですが、いかがでしょうか?

 また、図8右図左上方の三角形の中央部にある正三角形が最小のピースです。細かくし過ぎた感もありますが、その1辺を2cmにすれば、全体の大きさをどうにか2m四方に収めることができます。

 最後に図7で黄金分割の構造をご紹介しました。あれでデザインできるのかと思う方も多いかと考えましたので、黄金分割の構造を使ったデザイン例を図9に示しました。

図9:黄金分割の構造を使ったデザイン例

 曲線を使わずに黄金螺旋をイメージすることは難しいと思い、曲線を使ってしまいました。イメージとしては、「つる植物がヒゲを出し、クルクルと巻きながら成長し、花を咲かせる。風に吹かれて花ぐるまが回る。」です。

 以上で第4回の説明は終了です。幾何学の魔法に驚いていただけたでしょうか?ピンとこないという方は、図8の中の正方形の構造が図5の構造のどれに対応しているかという幾何学パズルを考えてみてください。楽しめること請け合いです。

 ここで紹介した構造は良く知られた、キルトで使えそうなものばかりです。筆者も知らないものが、まだまだ沢山あり、いつもヒントを探している幾何学パズルといったところです。筆者としては、余り馴染みのない六方格子に正方格子との相互関係があることや内部分割がデザインで使えそうだと感じていただければ、嬉しい限りです。

 次回は幾何学の根本である対称性について説明します。当初、タイリングについては自ずと取れる対称性は決まるので説明はしなくても良いかと考えておりましたが、配置や色付けを考える時などにやはりご存知いただいた方が良いと思います。知っていれば、デザインの幅が大いに広がるものです。デザインしている方には良く判り、試行錯誤の範囲を限定するのに必要な基礎的な範囲でご説明します。ご期待ください。

参考文献

中村健蔵2019『パッチワークキルターのための幾何学デザインシリーズ 幾何学で進化するキルトデザイン』楽天Kobo・キンドルDP 

 

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