幾何学の視点から見るキルトのデザイン 第2回 2種類以上の正多角形によるタイリング 

キルト

要旨:今回は、2種類以上の正多角形によるタイリングについて解説し、これらを利用したデザインについて説明します。

アルキメデスのタイリング

 さて、2種類以上の正多角形によるタイリングの代表的なものには、アルキメデスのタイリングという素敵な名称で呼ばれている図1の8種類があります。以下、例えば構成④は図1の④の多角形の構成のことを示します。なお、色付けは昔、蓮華シリーズの水辺に咲く花をイメージしたものと使い、インターネット上で紹介されているものよりもキルトっぽくしてみました。そのため、例えば構成③は7色も使用してしまいました。

図1 アルキメデスのタイリング(番号と多角形の構成)

 なお、正三角形と正六角形の2種類だけを使った構成①と構成②は前回説明した正三角形だけで構成した六方格子から作ることができます。

 ところで、構成⑤の中に正十二角形が隠れています。よく見ると正十二角形は、中央の正六角形1つをそれぞれ6つの正方形と正三角形が取り囲む形で構成されています。さらに構成⑤の中央の正十二角形を取り囲むそれぞれ6つの正方形と正六角形の配置を構成⑦の正十二角形と比較すると同じであることが判ります。

正十二角形の利用

 さて、正六角形は6つの正三角形に分解できます。したがって、正十二角形を正方形と正六角形、さらに正三角形まで分解して考えると構成③④⑤⑥⑦は正方形と正三角形で構成されたものと考えることができます。図2に正方形と正三角形の構成に分解した構成⑤⑥⑦を示し、構成⑤⑦が同じ正方形と正三角形の構成であることが判るように示しました。

 なお、正八角形を含む構成⑧については次回に関連説明をした後に内部分割等について解説します。

図2 正方形と正三角形の構成に分解した構成⑥と構成⑤⑦

 また、正十二角形が他の図形と重ならずに配置されている構成⑥⑦については正十二角形内の正方形と正三角形を回転させることができます。図3にあるように構成⑥⑦は図2と違う配置としてバラエティを作ることができます。なお、黄色の部分が回転させた正十二角形で、構成⑥は正方形が連接しない配置の図2とは異なる一例、構成⑦は正方形の異なるつながり方を示します。

図3 構成⑥⑦の正十二角形部分を回転させた一例

 次に、この中で2つ以上の図案を同時に配置できるものについて考えます。先に説明したように構成①と構成②は六方格子からできていることから、うまく配置すれば、隙間なくタイリングすることができます。また、構成③は正方形と正三角形の直線部分の連接なので、図4のように構成①②③は同時に配置することが可能となります。上部左が構成①、上部右が構成②、下部が構成③の配列です。

図4 構成①②③の同時配置の一例

 また、構成⑤⑦は先ほど説明したように正方形と正三角形に分解して構成すれば、同じとみることができ、さらに構成④は一部を重ねることで図5のように連接することができます。上部左が構成⑤、上部右が構成⑦、下部が構成④の配列です。

 なお、この他に2つ以上の図案を同時に配置しようとしても隙間が出来てしまい上手くいきません。正方形に注目して隣の正方形との関係を観察していただければ、お分かりになるように2つの配置を隙間なく連接することは困難です。

※正多角形を使った配列は、ここで説明しただけではないので、試行錯誤で出来る場合もある。なお、出来ないという証明は全ての場合できないことを示した上で、それが全ての場合であるという証明をしなければならず、2重の困難を極めることになるため専門家以外は立ち入れない領域である。

図5 構成④⑤⑦の同時配置の一例

 

内部分割を利用したデザイン

 これまで説明したアルキメデスのタイリングとそれを正方形と正三角形に分解した配列だけでも色々なものがあることがお分かりいただけたと思うが、さらに多くのバラエティのある構成を作り出すことができる可能性があります。それは正方形と正三角形をn等分に内部分割したものを考えれば良いわけです。一例として図6に構成④を3等分した正方形と正三角形の配列とその色付け例を、図7に構成⑥を2等分した配列とその色付けをしたものを示します。その他のものについてもn等分して挑戦してみてください。以上ですが、正十二角形を含むバラエティを感じていただけたら、作者として嬉しい限りです。

図6 構成④を3等分した正方形と正三角形の配列とその色付け例

図7 構成⑥を2等分した正方形と正三角形の配列とその色付け例

 今回、アルキメデスのタイリングによる正多角形の構成について説明しましたが、正多角形の構成は色々なものがあり、今回、出てきたものだけではありません。しかしながら、デザインに使えそうな見栄えの良いものの半分以上は紹介できたものと考えています。

 次回は正多角形でない一般図形によるタイリングについて解説します。これまで正多角形が1種類の場合、2種類以上の場合とまどろっこしい説明だと思われたかもしれません。しかしながら、幾何学等における考え方は限定した特別な場合を考え、その条件を緩和していくことで、より一般的なことに応用していくことを考えていこうというものなのです。

 次回は、一般的な図形のタイリングについて解説し、今回、説明を先延ばしした正八角形の内部分割や五角形についても説明しますので、新たな広がりを感じていただけるものと考えています。

参考文献

1 中村健蔵1998年「Mathematicaで絵を描こう」東京電機大学出版会

2 中村健蔵2019『パッチワークキルターのための幾何学デザインシリーズ 幾何学で進化するキルトデザイン』楽天Kobo・キンドルDP 

 

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